デジタル教科書の扱い方

2024年度から小中学校の英語でデジタル教科書を導入する方針を決めたことを文部科学省が発表しました。実際には2019年からデジタル教科書の使用が可能になっています。デジタル教科書の利用については2022年現在でも盛んに議論がされています。

この記事はIT専門学校で教師を経験した立場としてデジタル教科書を見ていきます。

デジタルとアナログの違い

アナログ(紙)教科書は重く、特定のキーワードを探すのに苦労する場合があります(特に探したいキーワードが索引にない場合)。それに比べてデジタル教科書は何冊持ち歩いても物理的な重さは変わりません。タブレットの重さだけです。特定のキーワードを探すのもすぐに探すことができます。

しかし、デジタル教科書は端末のバッテリーが生命線になります。例えば生徒や学生が前日に充電してなかったり、充電器を持ってくるのを忘れてた場合は教科書が使えなくなる可能性があります。

他にも教科書がダウンロード式ではなくネットワーク経由で見るものであれば端末がネットに繋がっていないと使えませんし、端末の不具合などが起こる可能性があります。比べてアナログ教科書はそういった心配がありません。

デジタル教科書のメリット

アナログ教科書はどうしても紙媒体であることから動画や音声による読み上げなどができません(ただし、動画についてはQRコードを掲載してデジタル端末で読み取ることで可能)。デジタル教科書であれば例えば理科の実験を動画で確認したり、英語のネイティブな発音を聴けたり、数学の計算過程を動画で確認したりすることができます。

デジタル教科書であれば例えば動画データを埋め込んだり、タップしたところを音声で読み上げたりすることができるかもしれません(技術的には可能だと思いますが、教科書自体のデータ量が大きくなるでしょう)。他にもデジタル教科書(端末)に向かって話しかけることで英語の発音練習なども可能になるでしょう。

他にも文字が読みにくい利用者に音声でテキストを読み上げる機能をつけたり、文字の大きさを任意に変更して読みやすくしたりすることもできるでしょう。

重いアナログ教科書を持ち歩くことに比べてデジタル教科書は何冊持っても物理的な重さは変わりません。現代の小学生のランドセルが重くなっているニュースを耳にしたことがありますのでランドセルが軽くなることは子どもたちの大きなメリットになります。

デジタル教科書のデメリット

これまででお話した通り、デジタル教科書は便利です。(物理的に)重くないし、動画も見れるしネイティブな発音も聴けるし・・・全体的にアナログ教科書と比べてもメリットのほうが多いような気がします。しかし、こういったメリットはあくまで教科書単体で見た場合です。教科書を扱う人のことを考慮していません。

全ての生徒・学生がデジタル端末に慣れているとは限りません。うまく扱えない生徒・学生もいるでしょう。例えば学校の端末にログインする仕組みの場合、ログインに手間取ってしまうかもしれません。アカウントを学校側で発行している場合、IDは学校側でわかるかもしれませんが、パスワードは本人が変えてる可能性があるため学校側でもわからない場合があります。学校側でアカウントを発行している場合、パスワードを初期値に戻すことが可能でしょうが、授業開始時に担当者がすぐに対処できるとは限りません。端末で教科書を見る以外のこともできてしまうと、授業を聞かずに他のことに熱中する生徒・学生がいるかもしれません。

他にも端末自体の問題として、ウイルス感染、端末の不具合による資料閲覧の遅延、画面タッチの反応の不具合、などが挙げられます。

また、かなり以前に、理科の実験動画を授業中に生徒の端末にダウンロードする指示したところ、授業内でダウンロードできなかったそうです。例えば学内無線LANの速度が200Mbps(200Mビット/秒)で動画データが100MBだった場合、ダウンロードするのに4秒かかる計算になりますが、これはあくまで端末が1台だった場合の理論値です。1クラス(30人ほど)が同時にダウンロードを開始すれば何倍も時間がかかります。

デジタル教科書というよりはデジタル端末が持つ問題と言うべきかもしれませんが、兵庫県のとある学校では勝手にアプリなどをインストールできないようにしたデジタル端末を使っていたところ、ある生徒が端末を初期化すれば自由にアプリなどをインストールできることを発見して、それが他の生徒にも広まってしまうことがあったそうです。このように本来の使い方とは違う使い方で新たな問題が生まれる可能性もあります。

アナログ教科書とデジタル教科書の違い

2019年からデジタル教科書が使用可能になり、「原則、デジタル教科書にすべきではないか」という声があがったこともありますが、必ずしもデジタルのほうが良いというわけではありません。先述した通り、端末自体が抱える問題や端末を利用する側が抱える問題があります。

2022/08/27(土)の読売新聞には次のような掲載がされています。「紙とデジタル端末の違いを比較研究する群馬大の柴田博仁教授(認知科学)の研究では、『ページをめくって行き来する』『資料を比べる』『マニュアルから答えを探す』などの行動は、デジタルより紙の方が作業効率が高いとの結果が出ている。複数の資料からその矛盾点を探す実験では、紙はパソコンより26%速く、矛盾点を見つける割合も11%高かった。写真集から指定された写真を探す作業では、紙はタブレット端末より3割速かった。」。

例えばp10とp210の内容を瞬時に行き来するなら圧倒的にデジタル教科書のほうが作業数が多いですし、2つのページを同時に見ることもアナログ教科書であればできる場合もあります。さらに利用者のスキルも加味されます。

新聞にも掲載されていましたが、教員の5割近く(48.6%)が端末のフリーズやエラーの対処に不便を感じているそうです。これについてはデジタル端末を使ってる授業全般に言えると思います。専門学校で授業をしていても似たことがあります。パソコン起動時に更新プログラムが入って授業開始時に使える状態にならずに授業についていけなくなる、デジタルノートをとろうとしても端末が反応しなくてノートをとれない、などです。授業についていけないとなると生徒・学生は一気にやる気を失います。

学校や家庭で起こるデジタル端末や環境の不具合(OSのアップデートや端末のフリーズ、ネット回線の不通など)が出た場合、子どもたちが真っ先に頼るのがその場にいる大人(保護者や先生)です。しかし、知識があってもOSのアップデートをどうにかすることはできませんし、ネット回線の不通などの原因を調べるには少し時間がかかります。また、全ての大人がデジタルに強いわけではないかもしれません。

他にも考えられることとしては年度の途中でテキストに変更があった場合、デジタル教科書は即座に変更したテキストを配信することができます。しかし、新しいテキストを配信することと生徒・学生全員がそれをダウンロードしていることは違います。ダウンロード型の教科書だった場合、先生は全員が新しいテキストをダウンロードしていると思って授業をしていても、新しいテキストをダウンロードしていない生徒・学生は説明とテキストが噛み合わず、パニックを起こすかもしれません。

それぞれの教科や利用する年齢、教師や学校側・保護者への負担など様々なことを考慮し、デジタルと紙を併用していくのがベストだと思います(例えば英語ではネイティブな発音が大事になるからデジタル教科書を使う、など)。